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トワが、私の手提げに手を突っ込んできた。
その遠慮のなさに今更驚くことはない。
私に対して常に無遠慮ということはないが、トワの行動はおよそ唐突で真意が掴みにくい。まずは受け止め、ヒントになりそうな次の言動を待つのみだ。
ただ、今トワの手に握られていたのが一樹へ渡す筈のチョコの箱だったので、少しだけ焦ってしまった。
「……開けるよ」
やはり、遠慮のないトワ。
箱に入れただけで、リボンも包装もない。それが災いしたのか。
……いや。
今更何の意味もないチョコだ。
トワが開けたとてどうということはない。
「美味しそ」
今年は、テリーヌチョコを作った。
Eテレで紹介されていたレシピを母がいたく気に入り、それを伝授されただけのものだった。
一樹という一個人でなく、幼馴染みという存在(と、そのご家族様)に渡すことを前提とした、恋愛感情抜きの『母子イベント』的な菓子作りであったことは、私も判っていた。それに乗っかる形で、少しだけ個人的な感情を上乗せさせ……てない。
仮にそうだとしても、今更だ。
関係ないのだ。
もう、今となっては。何もかも。
「知ってた?チョコレートって、媚薬なんだよ?」
そう言いながら、私のお手製のチョコ菓子を摘まむトワ。
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