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そこに、トワがわざわざ私の名前をねじ込んできたのだ。コーチもそう言ってた、なんて余計な装飾まで付けて主張するものだから、話がより拗れつつある。
私には私のシナリオがあるのだから、余計なことはしないでほしかった。私にとっては、私の描く未来が無駄に詰む可能性のある最悪手に感じる。
「サナは、私が好きなんでしょう? 私のために、この一年頑張ってくれてたんでしょう?」
その通りだ。
しかし、そこまでの気持ちをトワに言ったことなどなかったし、気持ちが表出しないようにも努めてきた。あくまで部全体のレベルアップを目的とするスタンスでいた。
私の奥底に秘めた大切な決意を軽々しく口にされ、しかも本人から詰責じみた口調で強要されるなんて心外だ。
主将になってこれからもトワのために心血注げとでも言いたいのか。
つい戦闘モードに入ってしまう。
「ちょっと自意識過剰じゃない?」
私は、意地の悪さを意識して演出しながら、トワを睨み付けた。
心の底では、放っておけと言い放ってすらいた。
私のトワへの想いも期待も私自身のもので、トワが手を出して良い領域ではない。
これ以上は口出し無用、と、視線に力を込めたところで。
トワが泣いていることに、私はようやく気がついた。
あまり感情の振り幅の大きくないトワが、顔を歪め、口を大きく開けて、声を震わせながら一言一言絞り出すように小さく叫んでいた。
「私はっ、バスケなんかっ、どーでも良いのっ、本当はっ」
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