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自分の手提げ鞄から、乱暴に箱を取り出す。
元々包装はしていないけれど、袋の中で開かないよう蓋をテープで留めていた。そのテープももう、トワに剥がされている。
箱を開け、チョコ菓子を出すのは簡単だ。
一片を指で摘まみ、自分の口に押し込んだ。
甘い。
じっとりと歯にまとわりつくのを舌でこそげながら、飲み込んで。
次の一片を口に入れる。
甘さで舌が収縮した気がする。
それでもそれを飲み込むのも待たず、また次の一片を口へ。
そしてまた……
これが媚薬だというのなら、私、私を好きになって。
ちゃんと、自信持って。
トワの相棒という地位を、他の人に譲ろうだなんて考えさせないで。そのサポート、というだけの位置に甘えないで。
そう、私は、私自身にずっと苛立っていた。
私が求める理想の姿に追い付かない自分に、歯痒さや落胆や、悔しさを感じて焦っていた。
……違う。理想に追い付かないだろう自分を想像して、それに対して焦りを募らせていたのだ。
これじゃダメだ。
せめて、できないだろう自分にでなく、できなかった自分に腹を立てられるくらいまでは頑張って当然の筈だ。
「紗奈っ」
一樹の声が、耳の奥で弾け、その一瞬で口の動きを止めてしまう。
嚥下しきれずそのままテリーヌチョコが喉の奥で自己主張したせいなのか、それともチョコを一気食いしたせいか。
津波のような吐き気が私を襲った。
「紗奈、どうした。それ、俺のじゃねーの?」
をい。
今、この状況で気になるのそこ?
思わず吐きそうになったツッコミのせいで咳き込み、その口に戻ってきつつあったモノを無事飲み込んで、いつもの如く一樹を睨む。
「チョコならさっき貰ってたじゃん。ミシナサン?から」
「お前何言ってんだよ。毎日って言っても良いくらい顔合わせてるくせに、お前が俺のコト思い出すのなんかこのイベントの時だけなんだぞ? 俺的には七夕の彦星くらい盛り上がってるイベントだっつーの。
……くださいよ、ソレ」
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