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「俺、桜川(高校)受けるわ」
中学2年のバレンタインに、一樹は突然言いきった。
桜川高校は、県下トップレベルとはちょっと言えないものの、平均程度の成績ではとても手が届かない。
「一緒に行こう。頑張ろーよ」
「何それ、キモいよ? うちのお母さんに何か焚き付けられた?」
笑って誤魔化してしまう。
「ははっ。ほら。チョコ分の家庭教師はしてやるから遠慮すんな」
「じゃ一生面倒見てもらえるわ」
この年、私は初めて一人で手作りした生チョコを一樹に渡していた。
母オススメの『簡単レシピ』だけあって、失敗もなく短時間で仕上げ、細かく刻まれたアーモンド(市販)を振り掛けることで成形すら適当に終えた代物だ。
と言うのは実のところ照れ隠しで、文句を言われた際の備えとしての構えだった。
今年は手作りを渡すんだと、私はそれなりに意気込んでいた。
しかし、一樹の返事は実にアッサリとしていた。
「おー、任せとけ」
その言葉の真意が掴めず、私はつい
「……スイマセン。勘弁してください」
いつもどおり茶化してしまっていた。
言わなきゃ良かったっ!
最後の一言、言わなきゃ良かったッッ!
……そんな後悔は、今だからではなく、この当時、発言直後には既にしていた。
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