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中学1年のバレンタインは、母親と作ったチョコレートケーキだった。ケーキの一片をお皿に乗せてサランラップをかけた状態で、二軒先にある一樹の家に押し掛けた。
それでも、一樹はとても喜んでくれた。
「すげーっ、今年はケーキかよっ。お前、毎年腕上がってんな」
「作ってんの、およそお母さんだよ」
「じゃ、来年は紗奈一人で作ってよ」
「やだよ、面倒臭い」
「愛情、感じらんねー」
「元々ありませんからねー」
少しずつ一樹を異性として意識し始めていた私は、逆にそれを漏らさぬことに躍起になっていた。
一樹本人にも勿論だが、兄に知られたらどう弄られるか判ったものではない。
それを知ってか知らずか、一樹は無邪気にぐいぐい迫ってくる。私の軽口などモノともしない平常心だった。
「ひでーなぁ」
と、穏やかに笑っていた。
そう、一樹はいつでもニコニコと穏やかだった。
そして、優しかった。
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