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あれは3歳頃だろうか。それとも4歳だったか。
「じゃんけん、ぽんっ」
一樹は、ついパーを出してしまう私を勝たせるために、いつもグーを出してくれた。
この癖が抜けなかった頃の私は、じゃんけんで勝った人が決まった歩数だけ前に進む遊びが大好きで、
「ぱーいーなーつーぷーるっ!」
と唱えながら意気揚々と6歩進むのが常だった。
何度も私ばかりが6歩進み、一樹の姿が小さくなってちょっと淋しくなる。
それに合わせて、一樹はチョキを出す。
「ちーよーこーれーいーとっ!」
一樹の歩幅は早生まれの私より大きく、一回で随分近くなる。それでもまだ、心許ない距離感だ。
一樹は、もう一度チョキを出す。
「ちーよーこーれーいーとっ!」
ぐんぐんと近付いてくる一樹の姿が嬉しくて、頼もしくて、私は負けたのに楽しくて仕方なかった。
笑い声を上げて、一樹を迎える。
一樹も、一緒に笑う。
そんな一時が、とても幸せだった。
そして、それが日常な毎日だった。
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