チヨコレイト

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 今、私の立ち位置から2ブロック先で、可愛らしくラッピングされた小さな箱が一樹に手渡されている。  首を少し傾げている女の子は、私と同じ制服だった。顔も何となく見覚えがある。うろ覚えだけれど、多分、一樹の英語研究部メンバーだ。  照れた笑みを浮かべる一樹は、まだ私には気付いていない。  特別な親しさを思わせる、しかしまだ遠慮のある、二人の間の適度に狭い距離。  二人の、ぎこちなくも楽しげな笑い声。  私はもう、一樹のチョキを期待してはいけないんだと、静かに納得した。 「うわっ、紗奈っ?!」  どれくらい時間が経ったのか。いや、経っていないのか。  こちらに視線を向けた直後、焦ったように箱を手提げに突っ込む一樹。  隣の彼女も一瞬こちらに顔を向け、すぐに目を逸らし、一樹に声を掛けた。  直後に走り去ったところを見ると、またねとか、バイバイといった挨拶を交わしたようだ。  別にそんな。いいのに。急いで別れなくったって。  呟いたつもりはないけれど、唇が尖ってしまったのが自分でも判った。  そんな程度の、然り気無く表出してしまった屈託は、自覚するほど然り気無くもなかったようだ。  私の隣を歩いていた部活仲間のトワが、訝しげな顔を向けてくる。 「どした?」 「あ。いや、ごめん。ちょっとボーッとした」  喉からこそげるように無理矢理出した笑い声が、乾いた口の内側に張り付いていく気がする。 「あいつのことで?」 「ひぇっ?!」  え?、という発音すら満足にできないのが情けない。  つい慌てて言葉を続けてしまう。 「ぃや別に」 「紗奈っ!」  誤魔化している最中に誤魔化しきれない親しさ全開な一樹の呼び掛け。  いや、別に。誤魔化す必要なんてナイのだけれど。  大体、一樹が私の幼馴染であることなど、トワは既に知っている。
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