7人が本棚に入れています
本棚に追加
よくわからない焦りに囚われ、小走りに近付いてくる一樹に視線を向けることができない。
とは言え、露骨に顔を逸らすことは憚られて、曖昧に笑うことでお茶を濁すつもりだった私の腕が、唐突に力強く引っ張られた。
「行こ」
トワに、強引に連れ去られる。
「えっ、ちょっと」
非難するような言葉を吐きつつも、私にとってそれは、これ以上なく都合のいい逃避だった。
一人だったらきっと、立ち尽くしていた。
そして、聞きたくもない色々な話を一樹から聞き、笑いたくもないのに笑わなければならなかったろう。
狡さを承知してはいたけれど、私は、連れていかれる体でその場を足早に離れていった。
「あいつが好きなの?」
行き着いた先は、近所の小さな公園だった。
小さすぎる敷地に唯一あるのは、申し訳程度に置かれたカバの形の小さな砂場。
私たちの他そこには誰もいない。
つい半月くらい前は、闇の訪れはもっと早かった。私たちの間を吹き抜ける風はまだ冷たさをはらんでいるのに、部活帰りでも残照が辺りを色付けていた。
その明るさが、トワの真剣な思いを真っ直ぐ私に突き付けてくる。
「……好き、って、言うか」
「ダメだよ。彼氏とか、認めない。私を誘ったのはサナなんだからね。責任とってよ。ちゃんと」
「トワ」
「私を本気にさせたの、サナだよ」
最初のコメントを投稿しよう!