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プロローグ
夜の森には熊や狼といった危険な動物はもちろん、注意しなければならない。
だが、スライムやおばけキノコといったモンスターの存在も忘れるべからず、だ。
奴らは山から降りて更には森を抜け、人里へとやってくることは滅多にない。
しかし、領域へと侵入する人間には容赦なく手荒い洗礼を与えるのだ。
そのために、山や森に入る人間はモンスター避けの護符を常に携帯している。
護符には所持者の姿をモンスターの目から隠す魔法が込められていた。
ただし、効果があるのは下級モンスターのみではあるが。
無いよりはマシである。
小さな木札が一枚、森の中に落ちていた。
表面には一文字の呪文が描かれている。
まだ新しい護符だ。誰かが落としたのだろう。
冷えた夜風が木々の間を吹き抜ける。
長年積もった枯れ葉がカサカサと小さく笑いながら護符を隠していった。
日もとっくに暮れた暗い森の中を幼い少年が走っている。
少年は見たところ四、五歳といったところだろうか。
汗で黒い前髪を額に張り付かせ、一生懸命に走っている。
服も白い肌も土で汚れていた。
くりっと丸い瞳には涙が溜まっていた。
「ばーちゃん! ばーちゃあん!」
少年は辺りを見回し、悲痛な声で叫ぶ。
一緒に山菜採りへ来た祖母とはぐれたのだ。
秋も深まり赤や黄色と葉の色を染めた木々は昼間と違い、美しさよりも不気味に見えた。
恐ろしさに顔は真っ青だ。
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