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ふと、視界の端に黒のスーツと黒光りする革靴が見えた。
目線を上げていくと若い男と目が合う。
細身で背が高く、顎も細くてシャープな顔つきだ。
白っぽい銀髪はやや前髪が長く、そこから覗く深緑の瞳が印象深い。
服装からして執事っぽいが、それにしては若いだろう。
俺と同い年か上ではないだろうか。
「何か?」
チミィ、人を落としておいて、その台詞はないんじゃないのかね?
相手を睨んでみたのだが、そいつの目は獲物を狙うハンターと同じで、俺はそっと目をそらした。キレたら何をしでかすか分からない最近の若者は非常に危険だ。
「まさか、来て下さるとは思いませんでしたよ」
小太りのおっさんが愉快そうに、それでいて満足げに手を叩いた。
いえ、俺は拉致られてきたのですが。
「レジェンドの称号を持つ勇者、エルアルト様に戦士団長フェルディナンド様……」
ママが『男』だった頃はフェルディナンドだったが、
「今はサマンサよ。それに戦士団長は引退して、今はダーリン・ラブに生きてるの」
おっさんの言葉をママが真顔で訂正した。
「サ、サマンサ様ですな。これは失礼。それに『無色』の魔法使い、アルカ様と……魔王を討伐された精鋭が揃うとは」
ムショクって言われると、今の俺には『無職』に変換されて聞こえるので、あんまり気分の良い称号ではない。
このままいくと、大学卒業後は本当にニートへ転落しそうだ。
やや興奮しているからか、おっさんの顔は赤らんでいた。
まぁ、先の大戦で魔王を倒した伝説の勇者に会えれば、子どもだけではなく大人も興奮するのも無理はない。
だが、エルアルトだけは止めた方が良い。
歴代の『伝説』の称号を持つ勇者達は立派かも知れないが、こいつは……こいつだけは……!
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