そのヅラをとりますか? →はい いいえ

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 世界三大信じられないことの一つ。  エルアルトは魔王を倒した伝説の勇者である。 「懐かしい敵の名を耳にして、黙ってはいられませんからね」  エルアルトは爽やかな顔でさらりと言った。  人の趣味嗜好はそいつの自由だろう。それをどうこう言うのは、人権侵害だ、差別だと人権団体から批難されるだろうが、俺は我慢がならない。  伝説の勇者が城下の路地裏でゲイバーを経営しているなんて誰が思うだろうか。  歴代勇者の中でも黒歴史のトップを飾ることは間違いない。  それに、勇者を目指す子ども達の夢をぶち壊すだろう。  ママなんて勇者一行の一人として、気高き戦士として世界に知られているのに、今やオネエ界のカリスマだ。  これも、あのエルアルトが新しい世界を見せたが為とは誰が知っているだろうか。  今も正義の戦士として旅をしているだろうと、城下の子ども達はとても平和な誤解をしていた。  そんな大勢の子ども達に、なぜか俺が申し訳なく思ったのも記憶に新しい。  あの大戦で英雄となった勇者一行は、今でも世界にとっては『特別』な存在である。その特別な『表の顔』に世の中は騙されているのだ。  暴露本でも出してやれば、目を覚ましてくれるのだろうか。  魔王を倒した勇者を前に目を輝かせているおっさんが、少しだけ気の毒に思えた。
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