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おっさんは頷くと、
「夕食の時間になりましたら、こちらからお呼び致しますよ。勇者一行の華麗なる戦歴をお聞かせ頂けると嬉しいのですが」
暖炉の上にある派手な金の置き時計に目をやると、三時のおやつを少し過ぎた頃だった。
床に落とされるまで寝ていたので体力は有り余っている。
俺は一息吸うと、
「あ、あの」
思い切っておっさんに声を掛けた。
「夕食の時間までお庭を拝見しても良いですか?」
部屋で大人しく何時間もぼんやりしているのは少々キツイ。
本当は図書室があれば見学したいのだが、屋敷の中をうろうろするのは失礼だろう。
ここは散歩が上策かと。
「えっ?」
発言が唐突だったのか、妙な間が空く。
おっさんが目を丸くして振り向いた。
俺、一応、空気を読んで発言したと思ったんですけれども。
顔に熱が集まり、胸の鼓動が徐々に早まってくるのを感じた。
やっぱり庭を歩くことすら失礼なのか。
そうだよな、俺はただの庶民なワケだし、庭を歩こうなんておこがましいにも程がある。
「あ、いえ、やっぱ止めときます」
気まずく感じて目をそらした。
「いいえ、別に構いませんよ。お若いとあって、元気があるなぁと感心していました」
「アンタ、依頼人に気を遣わせてるんじゃないよ!」
後頭部をママに叩かれる。
おっさんは小さく笑い、
「庭の一部が迷路になっていますから、そちらには近付かないようお願いしますよ。以前に客人が遭難して、家人総出で捜索をしたものですから」
そういう理由ならば許可を下ろすかどうか一瞬迷うだろう。
俺は「大丈夫」の意味を込めて一つ頷いた。
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