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黒いにも程がある執事
おっさんと一度別れ、用意された部屋へと案内される。
隅々まで金銀きらめく豪奢(ごうしゃ)な廊下を歩く。
高そうな絵、高そうなツボ、高そうな石膏像。
それらが全て、俺とは無縁の世界だ。
どれか一つ、タダで譲ってくれないかな。
そうだ、あの女体像が良い。
ぼんやりと眺めながら歩くこと数分、これもまた金銀眩しい個室へたどり着く。
もちろんだが、自宅の部屋より広かった。
「御用がおありでしたら、ベッドの天蓋(てんがい)から下がる紐をお引き下さい。すぐに参ります」
世話役は俺を床に落とした、あのハンターな執事だった。
執事は慣れた手つきでカップやティーポットをテーブルに並べて紅茶の用意を始める。
「勇者様ご一行のお世話をさせて頂けること、光栄でございます」
エルアルトやママへ向ける笑顔は嬉しそうだ。
それなのに、
「どうして俺は睨まれなきゃならんのですか」
思わず言葉が口から滑る。
そう、どうしてか俺には冷ややかな目線が送られていた。
男から熱い視線を送られたところで嬉しくはないが、これはこれで悲しい。
「失礼。私が存じ上げている勇者様ご一行には、お前のような貧乏たらしい若造がいた記憶がないので」
「え、ちょっと、俺はお前呼ばわりかよ! てか、貧乏言うな!」
「青ジャージのくせに英雄気取りとは、生意気ですね。その口を縫いましょうか」
この態度の違いはないだろう。
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