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「ごめんね佐伯さん。騙すつもりはなかったんだけど……。聞いての通り、俺は京本航の弟で覚って言います。月森高校の三年生。って言ってもついさっき卒業したばっかなんだけどね」
苦笑いする覚くんは私の記憶している京本くんにそっくりだった。
「制服着て、ちょっとの間だけ兄貴のフリしてれば当時の気持ち思い出してくれるかなって思ってやってみたんだけど……。ま、こんなことしなくても佐伯さんは手紙の差出人が兄貴だって分かってた、いや。期待してたみたいだったから、無駄な心配だったかな?」
「なっ!」
図星を突かれた私は一気に体温が上昇した。
「あの手紙ね、机の奥に隠してあった封筒を俺が偶然見付けたんだ。いつからあったんだか分かんないけど、書いたのはだいぶ前っぽかったよ」
「おい! 覚!」
京本くんの制止もまったく気にせず、覚くんは話を続ける。
「で、宛先が佐伯さんだったからピンときたんだよね」
覚くんはニヤリと笑った。
「佐伯さんの話は兄貴からよぉ~っく聞かされてたから色々知ってたし。卒業式に言えなかった事があるんだって、ずっとウジウジしてて。酔っ払うと佐伯さんとの思い出話ばっかり語り出してさぁ。おかげで佐伯さんとは初めて会った気がしなかったんだよね」
「おまっ! ち、ちょっと黙ってろ!」
「ってことで、兄貴の情けなぁい姿を見かねた優しい弟のこの俺が一肌脱いでやったわけ。だから、感謝されることはあっても怒られることはないと思うんだけどなぁ」
「覚! お前はもう喋るな! 頼むから!」
顔を真っ赤に染めた京本くんが慌てて叫んだ。
「はいはい。んじゃ、あとは兄貴が直接言ってよ」
お膳立てはバッチリだし、ここまで来たらさすがに言えるでしょ? 良い報告待ってるよ。それだけ言い残して、覚くんはあっさりと教室を出て行ってしまった。
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