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校門の前は閑散としていて誰もいなかった。 その代わり、"第三十五回 月森高校卒業式"と書かれた立て看板だけが目立っている。 校舎を見上げると、頬の筋肉が自然と緩んだ。 私の青春時代がたくさん詰まった、懐かしい校舎。 校門から続く花壇も、文字盤の大きな時計も、ここから見える景色はあの頃と何ひとつ変わっていない。 いいなぁ、私ももう一度高校生に戻りたい。もう一度青春を謳歌したい。そんなセンチメンタルに浸っていた時だった。 「……佐伯?」 後ろから私の名前を呼ぶ低い声が聞こえてびくりと肩が跳ね上がる。 煩く鳴り響く心臓を抑えながら、私は意を決して振り向いた。 そこには、懐かしい母校の制服に身を包んだ男子生徒が立っていた。胸元には卒業生の証である花の飾りが付いている。 私ははっと息を呑んだままその場から動けなくなった。 だって、彼の顔は、あの頃の京本くんにそっくりだったから。 自分の気持ちを伝えられないまま会えなくなってしまった、私の、初恋の彼に。 「……京本、くん?」 蚊の鳴くような声で言ったその問いに、彼は嬉しそうに笑ってこくりと頷いた。 「来てくれたってことは、届いたんだ?」 「……うん。あの手紙、やっぱり京本くんだったの?」 「うん。俺が出した」 胸の高鳴りは激しくなる一方だった。でも、でもさ、望んでいたとはいえこんな少女漫画的展開って……ありなの?
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