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それにしても、どうして京本くんは制服なんて着ているのだろう。
手紙の差出人が初恋の人だった、っていうだけでもびっくりなのに、現れたのが当時の姿の彼なんて……。
ていうか京本くん、あの頃と全然変わってないどころかそのまんまなんですけど。……え、成長してないの? まさか。
「その格好……コスプレ?」
「は? 何言ってんだよ。今日卒業式だっただろ?」
京本くんは不思議そうに首を傾げた。何言ってんだよ、はこっちの台詞なんだけど。
ひょっとして、私はあの日の卒業式にタイムスリップしてしまったんじゃないだろうか。
いやいやいやいや。何を馬鹿なことを。冷静になれ私。
「とりあえず場所移動しない? 教室行こうよ」
「え、入っていいの?」
「卒業式だし大丈夫でしょ」
……なんだその理屈。
突っ込もうと思ったけど、スタスタと歩いて行ってしまった背中を追いかけるので精一杯だった。
*
なんとも言えない、不思議な感覚だった。
高校生の京本くんと大人になった私が母校の校舎を歩いているなんて……信じられない。
いや、彼は本当にあの京本くんなのだろうか。
他人の空似……にしては似すぎているし、私の名前も住所もちゃんと知っていた。
じゃあ……まさか幽霊とか? いやいやそんな縁起でもない。
誰もいない廊下にはコツコツという二人分の足音だけが響いていた。
このままずっと二人で居て大丈夫なのだろうか。急に不安が押し寄せてきた。
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