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「ここ。三年D組の教室。覚えてる?」 不意に立ち止まった京本くんに言われて中を覗く。 カラフルなチョークで卒業おめでとうという文字が踊る黒板。規則正しく並んだ机。後ろに貼られた掲示物。そのどれもが見覚えのある光景だった。 さっきまでの不安はどこかへ吹っ飛び、懐かしさで胸がいっぱいになる。 「わっ! 教室だ! 私たちのクラス! 変わってない! でもやっぱ雰囲気違う!」 「そりゃあな」 「あ! 私の席ここだった!」 たたっと駆け出し、窓際の一番後ろの席に座る。私のテンションは一気に上がった。 「京本くんは隣の席だったよね?」 「ああ、うん」 そう言って、京本くんは興味なさそうにポケットから取り出した携帯を弄り始めた。 きゃっきゃっとはしゃぐ私とは対照的で、少しだけ恥ずかしくなった。 机の上にはいくつかの落書きが残されている。おそらくこの席の子が書いたものだろう。 クスリと笑って、可愛らしいウサギのイラストをそっと指でなぞる。しっかりとマジックで描かれたそれはさわっても消える事はなかった。 これあとで先生に怒られるんじゃないの? 大丈夫? 「……懐かしいなぁ」 ……ここから見える景色ってこんなんだったっけ。 真っ直ぐ黒板を見つめると、ぼんやりとあの頃の風景が浮かび上がってきた。
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