6人が本棚に入れています
本棚に追加
そのとき、目の前に一番会いたくない人の姿を見つけ、僕は慌てて近くの商品棚に身を隠した。
梶原かしはら玲子れいこ。
僕のクラスメイトだ。どうやら制服姿のまま買い物に来ているらしい。
細くすらりと伸びた手足に清らかな白い肌。きれいなストレートのロングヘアに、凛とした切れの長い目が意思の強さをうかがわせる。
とっても美しい女の子。初めて彼女を見たとき、僕はその麗しさに唖然としてしまったのをはっきりと覚えている。
そして、僕が今一番出会いたくない人であり、僕が学校に行けなくなった原因である。いや、別に梶原さんが悪いわけじゃないんだけどね。
とりあえず、彼女に顔を見られないようにしなきゃ、と気を付けつつ、僕はそっとその場を離れた。
その時だった。
店中に響き渡る悲鳴。店内にいた客は一体何事かと悲鳴の聞こえた方向に注意を向ける。
「だ、だれか。た、助けて!」
次にそんな女性の声が聞こえる。なんだなんだとがやつく店内。中には悲鳴のほうへと野次馬のごとく近づいていく人もいるけど、僕はその流れに逆行してそそくさと店を後にする。
だって絶対近寄ったらろくなことないじゃん。もし何かの事件だったとしたら、巻き込まれる危険だってある。巻き込まれなくたって、後から警察に事情聴取されることになったらめんどくさいし。
まあいいや。近くには他にもスーパーがあるし、そっちに行けばいい。
店の中に入ろうとする野次馬や、それを制止する店員を押しのけて、僕はさっさと店から出て自転車置き場に向かう。そして停めておいた自分の自転車を引っ張り出して、スーパーの敷地から立ち去ろうとした。その時だった。
「あぶねえ! そこどけぇえええええ!」
耳元で聞こえるやたらと野太い男の声。直後、僕の頬に強烈な衝撃が加わり、僕は思わず大きくよろめいて転んでしまう。
「ったく。ぼーっと突っ立ってんじゃねえよ」
「ご、ごめんなさい……」
起き上がりながら僕はとりあえず謝る。そして僕は信じられない光景を目にした。
「え……?」
そこにいたのは、声からイメージされるような大男ではなく、大きなアニメに出てくるネズミのような耳に、ぱっちりとした目、顔と同じ大きさほどの胴体をした、僕の手のひらより少し大きい程度のサイズしかない謎の水色の生き物だった。
最初のコメントを投稿しよう!