第一章「なぜ変身ヒーローは最初から必殺技を使わないのか」

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 僕が言葉を返せずにいると、ルークと名乗る変な生き物は、イラついた様子で。 「『ええっ!?』じゃねえよ。お前がヒーローになるんだよ!」  そしてルークは僕に向かって何やら水色の物体を放り投げてくる。今君はどうやってそれを取り出したのかな。明らかに君の体の八割くらいの大きさがあるんだけど。  僕はそれを地面に落ちる前になんとかキャッチする。ルークが投げてきた物体は、なにやら裏面に蒼い大きな宝石があしらわれている以外は、普通のスマートフォンのように見えた。 「それは『ジュエルフォン』変身するには必須のアイテムだ。それを使って変身しろ!」 「いや、わけわかんないよ。なんで僕がそんなこと……!」 「そこのスーパーマーケットにいる怪人をお前が倒すんだ! もうお前しかいないんだよ!」  わけわかんないこと言わないで。怪人とか、変身とか。よしんばそれを信じたとしても、どうして僕がそんなことしなくちゃいけないの。 「客や従業員の避難は終わったか?」  向こうで店員さんらしき人が騒ぐ声が聞こえる。 「いえ。まだ中に高校生くらいの女の子が! 犯人はその子を人質にとり立てこもっています」  高校生くらいの女の子って、まさか、梶原さん……?  いや、その可能性は低い。僕が見なかっただけで、他にも女子高生の客がいたかもしれないし。これだけの情報で梶原さんと断定するのは早計だ。  けど、ひょっとしたら。そんな思考が僕の脳裏にこべりついて消えない。 「まさか……、その子、知り合いか?」 「わ、わかんない。たぶん違うと思う」 「お前が変身すれば、その子を救うことができる」  ルークにそういわれ、僕は手の中にあるジュエルフォンとやらをじっと見つめる。  よくわかんないけど、このまま梶原さんを見殺しにはできない。  助けられるというなら、やるしかない。   「どうやれば、変身できるの?」 「そこの宝石を押しながら、掲げて『変身』と叫べ。そうすれば俺が変身する力を貸してやる」 「うん。わかった」  僕はジュエルフォンの宝石を押し込みながら腕を高く上げる。そして小さな声で「変身」と言った。  しばらく待っても、何も起こらない。 「変身できないよ……?」
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