第一章「なぜ変身ヒーローは最初から必殺技を使わないのか」

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 ところでルークの姿や声はみんなには認識できていないんだろうか。普通こんな変な生き物がふわふわ浮かんでたらぎょっとすると思うんだけど。先ほどの僕と同じように。 「あっちだ。あっちから怪人の気配がする」  ルークが僕の小指ほどしかない小さな腕を向けた先は、先ほど悲鳴が聞こえた方向だった。  商品棚の影からのぞいてみると、何やら黒い全身タイツのようなものを纏った仮面をつけた男が、大きな刀をぶんぶんと振り回していた。  精肉の棚を背に、周りを警察に囲まれているけど、どうやら人質を取っているらしく、警察はそれ以上近づけないでいる。  そして男の刀が向けられている先は……。 「梶原さん……っ!」 「やっぱりお前の知り合いか? あの黒い男が怪人だ」  梶原さんはどうやら怪人の後ろに座らされている様子だった。怪人は刀を時折梶原さんの首筋に向ける。俺「はいつでもこいつを殺せるんだ」と威嚇しているんだろうか。 怪人は「キョイー! キョイー!」と謎の奇声を上げる。 「わかるか。お前があの怪人を倒せ」 「いや、無理だよ。あれ完全に頭おかしい人じゃん。僕には何の力もないんだし……」 「馬鹿。俺がやった魔法少女の力があるだろ。今から簡単に戦い方を説明するから、よーく聞けよ」 「う、うん。わかった。お願い」 「よし。まずそのステッキを構えて『マジカルビーム』と叫べば普通のビーム攻撃が出せる。同様にして『ルークフラッシュビーム』と叫べば必殺魔法の発動だ」  僕は物陰から飛び出して、怪人にステッキを向ける。 「ルークフラッシュビーム!」  僕がそう叫ぶと、ステッキの先端に光の螺旋が渦巻いて、そのまま螺旋が怪人に向かって発射される。  光の螺旋はそのまま怪人の胸を穿ち、そのまま精肉コーナーの棚を破壊した。  怪人は「キョイー!」と苦しそうな声をあげながら、その場に崩れ落ち、体の端から光の粒子となって消えていく。 「ただし必殺魔法はあんまり使うんじゃないぞ。なにせ……、っておい!」  ルークが何やら大層怒った様子で僕に向かって声を荒げる。 「馬鹿野郎! いきなり必殺魔法を撃つ奴があるか!」 「えっ……。ダメなの?」 「駄目に決まってるだろうが! 特撮ヒーローが最初に必殺技を撃ったりするか!? お前がやったのはそういうことなんだよ!」 
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