第一章「なぜ変身ヒーローは最初から必殺技を使わないのか」

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 よくわかんないけど、駄目だったらしい。 「まあ今回だけは許してやる。さっさと逃げるぞ!」 「え。でも梶原さんがまだ」 「さっきのビームもギリギリ当たってなかったし大丈夫だろ。それよりこれだけ人が多い状況で姿を見られるほうがまずい。魔法少女は事件を解決したらすぐにその場を立ち去らないといけねえんだ」  さっきここに入ってくるとき姿見られまくったし、もう手遅れだと思うんだけど……。  けど僕は「裏口から逃げるぞ。急げ!」と叫ぶルークに従って、そそくさとその場を後にした。   スーパーから逃げ出した僕は、近くのマンションの陰に身を隠し、「ルーク。変身ってどうやって解くの」と尋ねる。 「解除って叫べ。そしたらすぐに解ける」  僕は即座に「解除!」と叫ぶ。ぱちんと眩い光が僕の周りではじけ、気が付くと服と上方が元に戻っていた。ステッキも消えている。 「ふう……。もう。わけわかんないよ。いったい何なの。説明してよ」  僕は近くの石段に腰を下ろしてルークにそう言った。時計を見ると僕がスーパーから出てほんの数十分しかたってないんだけど。もうまるで何時間も前の出来事のようだよ。 「なにって……。魔法少女だよ。そしてさっきの男は怪人」  うん。それはさっき何度も聞いた。僕が聞きたいのはそういうことじゃない。 「わかった。もうちょっと具体的に聞くよ。君は何者なの」   僕はこの目の前にふわふわ浮かんでいる水色の二頭身の謎生物に尋ねる。 「おっと。自己紹介がまだだったな。俺の名前はさっきも言ったがルーク。妖精界から来た妖精だ」  のっけから意味が分からない。 「妖精界って、よくある魔法少女アニメに出てくるマスコットの出身地的な?」 「その通り。これまでにもけっこうな数の妖精が人間界に来て、魔法少女の力を人間に与えている。あのアニメたちは実話をもとに作られたものも少なくないぞ」  そうなんだ。プリキュアが実在するならぜひ会いたいものだ。 「今回、Dr.キングと名乗る悪の科学者が、複数の妖精を謎の技術で呼び出した。この世界をむちゃくちゃにするためにな。俺たちのリーダーであるクイーンという妖精が、Dr.キングの活動に加担することを決めやがった。そこで俺たちのうち何人かは、Dr.キングとクイーンを裏切って人間に力を貸してやることにしたってわけだ」
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