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「うるっせえんだよ!」
刹那、俺は怒鳴っていた。苛立ちが沸点を通り越して手を振り払っていた。怒りに身を任せた右腕は誰に向けるでもなく空を切るはずだったのに、手首が何かに直撃する音を聞く。
我に返った。
「……あ……」
俺の手が勅使河原の持つ紙袋に当たっていたらしい。ピンク色の紙袋はあっさりと勅使河原の手を離れ、乱暴に床に放られる。べしゃ、と血の気が引く音がした。
「……勅使河原、その、俺……」
静まりかえる教室。俺の一喝と無惨な落下音だけが響いた。さっきまでヒートアップしていた空気が瞬間に冷えきっていく。
恐る恐る勅使河原の顔を見ると、彼女の目元は赤くなっていた。
「ごめん、その」
「……だいじょうぶ」
全然大丈夫そうじゃない返事がきた。涙をこぼしてはいないものの、声が上擦り震えている。堪えているのは誰の目にも明らかだった。
そのまま勅使河原は踵を返し、教室へと戻っていった。これが、一月前の話だ。
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