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奥まった母の墓を背にして、月明かりに鈍く照る、様々な形の墓石の間を縫うように中ほどまで戻ったところで、巨岩を彫った慰霊碑のマリア像と四阿を回り込んで現れた、グロウと鉢合わせした。
「おっと――」
「こんなところで今頃何をしている」
「墓参りだよ。母さんにおやすみのあいさつをしにね」
長い柄の先端に、ランタンがぶら下がったトーチを片手に持ったグロウは、黒いロングコートをまとい、背には幅の広い諸刃の剣を背負っている。
優に一メートルを越える長剣で、遥か昔から鍛え直しては使っているグロウの相棒だった。
いくら今は刃を潰してあるとはいえ、とてもじゃないが、不審者と間違われてあれを振り回されるのはごめんだ。
「グロウこそ、こんな時間に寒い中、見回りお疲れ様。奥に異変はなかったよ」
「そうか……最近どうにも、墓荒らしが多くてな」
白い息を吐きながら両手を振る愛真に頷き、グロウは刈り込んだ黒褐色の短い髪を革手袋をした手で掻くと、ゴツいマウンテンブーツの踵を返す。
愛真も冷えきった手をポケットに突っ込み、ダッフルコートの襟に顎を埋めるようにして、二人連れ立ち墓地の門を抜ける。
鋼鉄の扉を閉めるとグロウが厳重に鍵をかけるのを待ち、しかし館には戻らず、敷地を横切る形で続く遊歩道を選んで辿り、辺りの見渡せる丘の頂上に出た。
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