序章

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     かつて天界に、『楽の音の天使』と呼ばれる者がいた。  この星と共に生まれた神が統べる世界において、並ぶ者のない美しい歌声と流れる金の髪、純白の翼を持つ碧眼(へきがん)の天使は、多くの者に慕われ、神の御前(みまえ)の天使のひとりとして重要な任に就いていた。  そしてある時、神の御子(みこ)を宿す二つの卵を天界から魔導界へと運ぶ(めい)を授かった。  しかし異界を繋ぐ次元回廊の巨大な門を潜った刹那、突如として吹いた強風により、卵は(かご)からこぼれ落ちる。 「どうして! 回廊に風など吹くはずが――」  伸ばした手をすり抜け、紫の闇に飲まれた卵はやがて次元を越え、別々に人間の女の腹へと宿り、御子は封魔者(コンファイナー)守護鬼(スピリット)という宿命を持つ、異能力者として生を受けることになる。  神の編んだシナリオが発動されるその時に、なくてはならない(キャスト)として……  そして、神の命を果たせなかった天使は、全てを無に帰する消滅の門を潜るのを待つ身となった。  だが、天使は神の慈悲を()い、二人の御子の行く末を見届ける為に、堕天となる道を選ぶ。  どれほど過酷な転生の道行きが待っていようと、愛する天使(ひと)ともう一度だけでも巡り逢える可能性のある生を――何よりも、守りきれなかった御子を見守る生を、選んだのだ。
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