序章

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「たとえ記憶を失ったとしても、この魂に刻まれた烙印(らくいん)と共に、最後まで見届けます。必ずや、お二人の道行きの布石となりましょう」 「……そうか。ならば全ての者の記憶から消え人界へ堕ちるがよい」 「寛大なお慈悲こそ、終生忘れえぬ幸福にございます。誠にありがとうございます」 「楽の音の天使よ……そなたと二人が出逢う時、ことは始まる。そして、ことが成就し無事終わりを迎えたその時は、全てを許し選択の道を与えよう」 「はい。なんとしても、全てを見届けます」  そうして、天使だった者は翼を落とされ、愛するひとが命がけで捧げてくれた、唯一無二の片翼を背に焼き付け、いくつもの時代を巡った。  ――そして現代、西暦二〇五☓年。堕天としての宿命を負った者は、天性の歌声を持つ黒髪碧眼の私生児として生を受けた。  名を愛真(あいま)。心を病んだ母親の愛を得られぬまま育ち、幼くして死別。しかしジャズバーの歌手だった母親は、愛真に音楽と夢を(のこ)して逝った。  共に暮らそうという実父の誘いを断り、面倒を見てくれていた、初恋の相手でもある大学生の真悟の(そば)に残る為、七歳にして養護施設での暮らしを選ぶ。  真悟の下へ通いながら、父との交流も続け、穏やかな生活を送っていた小学二年生の初夏。愛真はひとりの少年と出逢う。 
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