序章

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 小遣いを稼ぐ為に公園でピアノの弾き語りをしていた愛真に、興奮した様子で声をかけた同い年の少年。 「お前、すごいなあっ。俺、こんなにわくわくする歌、聞いたことないぜ! それにピアノも!」  祖父の下に見舞いに訪れていた彼に誘われるまま、数日を共に遊んで過ごす内、二人は互いに淡い想いを寄せ合うようになっていた。  そして別れの日。 二人を撮った写真に互いにメッセージを書いて別れた後、悲劇は起きた。  少年が妖魔に襲われたのだ。隠していた退魔能力を使い少年を助けた愛真だったが、意識の混濁した少年が放った一言が彼女の心を引き裂いた。 「お前っ……キモチ悪いっ――」  そして愛真は、少年との思い出も、異能力も、全てを記憶の奥底に封印した。  ――それから更に月日は流れ、愛真十二歳。ボーカリストとギタリストとして出逢った愛真と少年は、そうとは知らず再び恋に落ちる。  しかし男装の異端児へと様変わりしていた愛真と、親に抑圧された優等生となっていた少年は、すれ違い続けた。  やがて中学二年生となった愛真は、ある事件に巻き込まれ、妖魔に襲われたことにより、かつて天使であった記憶と共に、少年への想いの全てを思い出し、異能力をも取り戻す。 (僕は、見届けなければならない。自らの宿命に決着を付ける為に……彼らが出逢った今こそ)  そして事件を片付けた後、妖魔に襲われたことにより、背中に片翼の傷痕(きずあと)を持つ少年――広志と想いを伝え合い結ばれたのだが、彼は愛真に片翼を捧げた、愛するひとの生まれ変わりでもあったのだ。  しかし、前世を思い出すことのない広志を、自らの宿業(しゅくごう)に巻き込むことを恐れる愛真の心は、揺れ動く。  封魔者と守護鬼とも出逢いを果たした今、運命の歯車は軋みながらも確実に回り始めていた。  
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