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今年は二十日から二十七日まで一週間の休みが取れたので、二十五日まで教会に滞在する。
酒も色事も断ち、生きる糧とも言える音楽も遠ざけ、せがまれなければピアノに触れることすらない。二十四日の夜までは……
唯一の家族である愛犬のジョンさえも、同僚であり封魔者と守護鬼であるミカエルとキャリーに預け、日常のいっさいを押しやり夜ごと祈りを捧げ、無念を抱いたまま若くして逝かせてしまった母に謝り、自分の罪を懺悔し続けるのだ。
そして今年は見慣れない顔がひとり。それは愛真にとって予期せぬ、しかしとても懐かしい人物との再会だった。
わずかばかりの荷物と手土産を携えた愛真を玄関で出迎えたのは、長身でがっしりとした体躯の青年。
『判定者』と愛真はその者を呼んだ。
『放浪者』とその者は愛真を呼んだ。
驚きと喜びをその一言に凝縮させ、二人は固く手を握り合い、愛真はしかし小さく首を横に振った。
「今は見届ける者だよ。名は愛真。大雪愛真――シナリオに存在しない者」
「そうか。俺も今は名を貰った。グロウだ」
「輝き、か。神父様に貰ったの? いい名だね」
彼もまた神に縛られた者であり、人類の行く末を見届ける使命を負った時の流浪者だ。
その彼との再会は、愛真に確信を与えた。神の編んだシナリオは――運命は、集い緩やかに加速し始めているのだと。
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