わたしは人魚

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何を言っているのか分からず、わたしは唖然として彼を見ていた。 すると彼は涙目になって笑いをこらえながら、わたしの身体に絡まっている網を解いてくれた。 「さぁ、海に帰りな」 そう言って笑った顔が月明かりに照らされて、わたしはその精悍な顔つきに見惚れた。 もっと見ていたい、と思った。 でも、彼はぼんやりしているわたしを抱きかかえ、優しく海の中に落とした。 水に全身を包まれて、渇きはじめていた肌が一瞬にして潤うのを感じる。 わたしは海面すれすれのところでくるりと一回転して、波間から顔を出した。 「………あの、」 小さく声をあげると、彼は眉をあげた。 「ん?」 優しく聞き返されて、胸の鼓動がとたんに早まり、うまく声が出せなくなってしまう。 「……いえ、あの」 口ごもっていると、大きな手が伸びてきて、くしゃりと頭を撫でられた。 「もう捕まるなよ、間抜けな人魚姫」 とくんと心臓が跳ねる。 「………あ、ありがとう……」 わたしがなんとかそれだけ口に出すと彼は、 「じゃあ、またな。縁があったら、もう一度ここらの海で会うこともあるだろう」 と笑った。 それから、巧みに櫓を操り、すいすいと遠ざかっていった。
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