恋わずらいの人魚

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あぁ、やっぱり、あの人の網だ!! わたしは狂喜乱舞したい気分だった。 でも、そんなことをしている暇はない。 このチャンスを逃したら、次に会える保証はないんだから!! わたしは思い切り尾びれを振って、腕を精一杯に伸ばして水を掻き、網のすぐそばまで近づいた。 そしてがっしりと網をつかむ。 でも、波に揉まれて揺れ動く網から手が離れそうになってしまい、わたしは焦りを覚えた。 もし振り払われたら、終わりだわ。 わたしは、海中にふんわりと広がっている網の中になんとか入ろうと、必死でもがく。 でも、中には大きな大きな魚が一匹捕らえられていて、そいつが邪魔で中に入れない。 「………邪魔よっ、どいて!」 わたしは渾身の力でそいつを網の外へ投げ出した。 そいつは『ありがとう』というように背びれを振りながら去って行ったけど、わたしはそれどころじゃない。 ぐんぐんと引き揚げられていく網の隙間から身を滑らせて、なんとか中に潜入することに成功した。 あぁ、もうすぐあの人に会える………! ざぷん、と水しぶきを上げて、網が海面に出た。 わたしは網目にしがみつき、なんとか顔を出す。 「…………おっ! 重い。でかいのが掛かったなぁ。………って、あれ?」 わたしの期待どおり、舟の上から網を引き揚げているのは、あのときの彼だった。 わたしと目が合うと、きょとんとした顔になる。 「………お前、あのときの人魚か?」 「ええ、そうよ!」 「なんだ、また網に入っちまったのか。ほとほと間抜けなやつだなぁ」 彼は呆れたように笑った。 その笑顔は、やっぱりとっても素敵だった。
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