板チョコ1枚マイナスひとかけ

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素早く食事と入浴を済ませて、二階の自室に入る。 ドアを閉じた瞬間、やっと、マサコだけの時間が訪れるのだ。 いつもなら、そのままベッドに倒れ込んでしまうのだが、今日は違う。 せっかくだから、ティーバッグだけど、香りが好きな紅茶もいれてきた。 丸いピンクのカーペットに座ると、バッグを手繰り寄せて先ほど購入した板チョコを取り出す。 そういえば、一階のリビングで両親が見ていたテレビ番組の間にも、このチョコのCMが流れていた。 べりべり、銀色の紙を破る。 ぺき、ぺき、丁寧に溝に合わせて割って。 うん、きれいな四角に割れて満足。 「いただきまーす」 マサコは、そっとひとかけのチョコを口に含むと、思わず目を閉じた。 「んーっ……あ、まーい!」 口の中いっぱいに、甘さが広がる。 舌触りはなめらかで、喉を通りすぎると、そのまま身体のすみずみまでも甘さが行き渡っていくような気がした。 はあ、と一つため息をつく。 でもこれは、イライラしたり、疲れたりした時のため息じゃない。 幸せなため息だ。 紅茶を一口飲んで、もうひとかけ口に放り込む。 じんわり暖かさも広がって、 ふいに、閉じたままのマサコの目からぽろり、一粒涙が転げ落ちた。
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