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「先輩! 僕に義理チョコをください!」
2月7日。バレンタインデーの一週間前。各地のスーパーが、バレンタインという行事の波に乗ってこれでもかっていうくらいにチョコを売り進める時期。
ゼミ室に駆け込んできた後輩は、扉を開けるや否や、そう叫んだ。
「え……何で?」
ノートパソコンを立ち上げて必死に課題レポートを打っていた私は思わず手を止める。書こうとしていた内容が一気に抜けた。これはまた家に持ち帰って徹夜コースかもしれない。結構いいこと閃いていたはずなのに。
「僕……今年で女の子からチョコを貰わない歴が二十年になるんです……せめて義理でもいいんで欲しいんです」
「……じゃあ、他の人に頼めば?」
私たちの関係は、単なる専攻の先輩と後輩という程度。まあ、好きなアニメが被っていたことから交流が始まり、レポートを手伝ったり、教授の話をしたり、たまにゼミ室で一緒にご飯を食べたりする仲くらいにはなっていて、そんな私だからこそ、頼みやすかったのかもしれないけど……でも、そもそもそんなことを頼む方がおかしいのだ。
「いやいや、こんな不躾なお願いをできるのは先輩くらいなんですよ」
「……それは百歩譲っても、何で義理なの……本命が欲しい相手とかいないの?」
「んー……浮かばないです。ねえ、義理くらいだったら躊躇う必要ないですよね?」
後輩は私の隣に座ってすり寄ってくる。
人懐っこくてお人好しで、ふにゃりと笑った顔は可愛くて、でも気が利くような紳士的なところもあって……絶対この後輩は女子にモテると思う。
ただ、残念なくらいに鈍感なせいで好意に気づいていないだけだ。はっきりと断言できる。だって、見ての通り私の好意に全く気が付いていないんだから。
本当に、この後輩は残念すぎる。もっと周囲のことをよく見るようにしないと、そのうち痛い目に遭うって確信だって持てる。この鈍感さは本当にどうにかしてほしい。
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