女神のおくりもの【あるボクサーの物語】

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女神のおくりもの【あるボクサーの物語】

ボクシングのタイトルマッチ。10年追い続けた夢の舞台。リング中央に俺とレフリーと対戦相手の3人が並んで佇み、判定の結果を待っている。 リングを囲む数千人の観客が固唾を飲み見守っている。音がない世界に迷い込んだような静寂。自分の心臓の音だけが聞こえる。激しく力強く鼓動している。 この判定の結果次第で、人生は大きく変わる。年齢的にも体力的にもチャンピオンになれるチャンスはこれが最後だろう。負けたら引退だ。 勝てばチャンピオン。今までの苦労と努力が報われ、新しい道も開けるだろう。チャンピオンとそうでなかった者には、天と地の差がある。それは将来の生活にも影響する。 勝てば長年付き合ってきた彼女にプロポーズしようと決意し大舞台に挑んだ。もし負けたら…この先ずっと一人で生きていくことも覚悟している。 試合は、全力を出し切った。後悔はない。あとは結果を待つだけだ。ほぼ互角の戦いだった。それは戦ったもの同士が一番分かっている。判定は微妙だろう。どっちに勝利の女神が微笑んでもおかしくはない。 「勝者!赤コーナー、木村!」 審判が下された。会場に歓声と落胆の声が大雨のごとく降り注ぐ。勝者には恵みとなり、敗者には激しく体を打ち付ける。
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