ファントムペイン

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語尾にハートをつけて、片手をヒラヒラと振っていた菜穂ちゃんがポケットから携帯を取り出して、 「顔出し、しないんで。ブログ用に写真撮っていいですか?」 と、私たちの写真を撮る。 「読者のみなさんに、幸せのお裾分けです」 満面の笑顔の菜穂ちゃんの愛らしさにノーと言えるわけもなく、私たちはリハビリルームを後にした。 病院内のカフェで私は翔くんと向き合う。 「菜穂ちゃんのことは、見舞いに来たときに何度か見かけていて、闘病生活をしている方たちのブログも色々見ていたから、すぐにわかったんだ」 翔くんは訥々と、語る。 「結婚式もキャンセルになって、美沙からも会いたくないって言われて、俺もどうしたらいいのか、よくわからなくて。でも、本人の望むとおりにするのが一番なんだって言い聞かせて」 片手で目を覆う翔くんは、会わない二週間でかなり痩せたような気がする。 「プロテインや栄養ドリンクばっかり飲んでたんでしょ」 料理はからきしの人なのだ。 「なにを!俺だって自炊くらいできるぞ!これだって作ってきたんだ!」 そう言って、可愛らしいラッピング袋を差し出す。 「バレンタインだからさ」 「え!?もしかして、翔くんが作ったの!?」 欧米では男性が女性にプレゼントするだろ、とごにょごにょと付け加える翔くん。 袋からは、なんだかえらいおどろおどろしい形状の茶色い物体が出てくる。 「なに、これ?」 「俺とおまえが朝ランしているところ」 「......前衛アートすぎて、ちょっとよくわからないな」 「こっちが俺で、ちっこいのがおまえだよ!」 「食べていい?」 ちっこいほうの足と思われる箇所をポキリと折って食べる。なかなかシュールだ。 「美味しいね」 「ゴディバ溶かしたからな」 「うそっ!」 もったいない、という言葉を飲み込んだ。 翔くんが真面目な顔で私を見つめていたからだ。 「古谷さん、覚えてるだろ?」 「先週末、二日酔いになるほど飲んだんでしょ」 「ん.......おまえに会いたくないって言われたときにも飲みに連れていってもらってさ」 古谷さんの奥様は急性白血病で他界されていた。 「またね、って言うのは、次に会うことが当たり前だと思っているから言える台詞なんだ、って。このとき、この瞬間が最後かもしれない。本当は明日また会える保証なんてないんだ。そう言われたよ」
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