0人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は最近、気になる女性がいる。
たとえば毎日の通勤電車のいつもの車両にいつも乗っている女性が気になる、という類の、無意識かも知れない本能的な興味でなくて、たとえば寧ろいつもの車両にいつも乗っている、僕だけにとって一風変わってみえる浪人生が、興味でも何でもなく気になるみたいに、僕の心をノックするような女性がいる。
くり返すけれど、それは鶴の恩返し的なノック(*ある男に助けられた鶴が美女に変身して男の元に行き、恩返しをするという日本昔話)でも、恐怖の白雪姫的ノック(*美しい姫に嫉妬する継母が、姫に毒を盛るために毒りんごを持って姫の住みかをノックする)でもなくて、何ていったらいいのだろう。ただただ単純に気になる。
何故ならやっぱり今日もいるから。
スーパーマーケットのフードコート。
もう僕は察しがついている。
彼女とその母親と車いすの父親だ。
フードコートのすいている時間帯。火曜日の13時すぎ。
大抵僕は火曜日、休憩時間に社用車を借りることができて、火曜日はそのスーパーマーケットのフードコートにカレーうどんを食べに行く。火曜日の僕のランチブレイクは14時まで。
彼女はぺらぺらの文具、下敷きのようなカッティングボードを公共のテーブルの上に置いて焼き立てのパンを上手くスライスする。購入したばかりのハムやチーズを挟んで父親や母親に渡している。
彼女の父親はハムの切り落としの端の部分が好きなのだろう。1ピースが小さくてたくさんの数のハムを挟んだサンドは父親に。パンの端、耳は彼女と母親の好みだろう。
いっしょに美味しそうに、3人で毎週火曜日のこの時間にサンドイッチパーティをしている。
いつ警備員に叱られるだろう。僕はひやひやする。
たまに警備員のいるとき、彼女はナイフをしまってパンをちぎり、それをハムやチーズで巻いて父親や母親に渡している。
でもいつか。
彼女達は叱られるだろう。
そんな風景を見ながらも、僕はここのカレーうどんランチがたまらなく好きだ。
最初のコメントを投稿しよう!