Fauret

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陸繋島の小さな山は遠くから見ると食事を終えた牛が草地に臥して休んでいる姿に見えることから臥牛山と呼ばれ、赤色や青色のトタン屋根の家々はその山の麓まで軒をならべる。  夕方ともなるとその頂きからの眺望は人をして恍惚にいたらしむ景勝の地であった。  山の中腹の森を背に、緩やかな坂のうえに、ひとりの娘が住んでいた。  娘はそのころ十六であった。  坂下の学校に通い、生来の明るさは周りから好感を呼び、友達は多く、年ごろの恋愛や将来の悩みを黙って聞いてあげる、まさに愛すべき少女であった。娘の笑みはたえることがなく、快活な言動は娘を慕う人々の支えとなり、娘自身の悲しみに対する力でもあった。 だが娘にも悩みはある。ただ人に見せないだけであった。
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