0人が本棚に入れています
本棚に追加
冬の訪れを知らせるかのように冷たい風が吹き荒ぶ12月。
太陽が雲に隠れ、余計に寒さの増した今日は、不運にもマラソン大会が開催される事になっていた。
普段なら制服に身を包み登校するのだが、今日は学校指定のジャージに身を包み、愛用のリュックを背負って伊賀巧(いがたくみ)は家を出た。
──わざわざ冬にマラソン大会なんてしなくてもいいのにな…。
白く漏れ出た溜め息を隠すようにマフラーを鼻まで引っ張り上げ、学校へ向けて自転車を漕ぎ出す。
住宅街を抜け桟橋を渡ると、あまり綺麗とは言い難い川沿いの土手を通過する。
マラソン大会のルートでもあるこの道は、練習でも幾度も通った走りなれた道だ。
──あれ?
飽きる程に見慣れた風景の中で、一点の違和感を感じ、巧は自転車を止め辺りを見渡した。
犬の散歩をするおばさん。
子供の送迎をするお母さん。
登校中の学生。
眼前に広がるのは、やはりいつもの見慣れた風景だ。
──気のせいか…。
何故かもやもやと残る違和感に小首を傾げながら、巧は再び自転車を漕ぎ出した。
最初のコメントを投稿しよう!