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プロローグ
街を彩るまばゆい光の中をバイクで駆け抜けていく。
焦りと緊張感で手が汗ばんでいるが、一方でハリウッド映画の中の主人公になったかのような言いえぬような高揚感もあった。だが今はそんな悠長なことも言っていられない。なにせ警察に追われているのだから。
当てもなくバイクで走っている途中、信号で止まっていた際に警察官二人を連れた刑事に職務質問された。どうやら素性はすでに割れていたらしい。
13日前の事件のことで聞きたいことがあると言われ、バイクを降りるように指示された。俺はそのまま従うそぶりを見せ、ポケットに入っていた小銭を刑事の顔にぶつけ、ひるんだ隙にバイクを走らせた。
小回りの利く良さを生かし、Uターンやフェイントで挟み撃ちになることを避けてきたが、だんだんと一般車の多い道に誘い込まれている。これからパトカーの数も増えるだろう。捕まるのは時間の問題だ。
路地を抜け、大通りに出て道なりに進む。道行く人がみんな不思議そうな顔や驚いた顔でこのやり取りを見ていた。
パトカーは後ろにぴったりとついている。このままでは追いつかれる。何かないか。
考えながらひたすら直進していくと、左側の道路の先に踏切があった。カンカンと音を鳴らし始めている。だいたいそこまで約80メートルといったところだ。
一か八かだ。そのままスピードを上げ、止まっている一般車を避けるために歩道へと乗り上げる。このスピードでのままで踏切へと突っ込んでいった。ポールが徐々に降りていくが、それに臆することなくスピードを維持し続けた。
間に合ってくれ。
そう願いながら頭を下げて踏切へと突っ込んだ。
ポールがヘルメットをかすめたものの、ぎりぎりで向こう側にたどり着いてブレーキを踏んだ。後ろでパトカーが急停止するのを確認する。
思わず笑ってしまった。
とりあえずこれでしばらくは時間稼ぎになるはずだ。俺はバイクを再び走らせ、できるだけ遠くに逃げようとした。
このとき、わずかに俺は油断をしていた。警察を撒いたことへの安堵感故に周囲をよく確認していなかった。
踏切からわずか数メートル進んだ直後に、左から迫るトラックの車体が見えた。だが見えた時にはどうすることもできない距離にあった。
強い衝撃が襲い掛かり、俺の体は宙に浮いた。
地面に叩きつけられ、その後は暗闇の中へとゆっくりといざなわれた。
それが俺という人間の最後だった。
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