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「・・・それってDVってことか?」
萌香はこくりと頷いた。
俺は言葉が出なかった。
だが昨日見た数々の痣や火傷。そしてあの怯えたような様子。すべて彼氏からのDⅤだとしたらつじつまが合う。以前社会学の講義で聞いた被害者の様子とよく似ているからだ。
「凛の彼氏、すごく嫉妬深くて・・・。凛のこと家に閉じ込めてるんだって。付き合ってすぐにみんなで飲みに行った後、他に男がいないか何回も問い詰められたって・・・」
次第に萌香の声が震えていく。
話によるとそれ以降、彼氏の監視が強くなり、暴力もほんの些細なことで増えていったという。顔面を拳で殴られたり、煙草を押し付けられたり、腹を蹴られたりもしたそうだ。
そして何より、彼氏の暴言や異常な束縛が凛を徐々に苦しめているらしい。そして挙句の果てに学校をやめろと命令されたのだ。そうしなければ愛していないとみなして殺すと言われて。
デートDVについてはジェンダー論の授業で習った内容だ。
様々な体験談や事例を見せられてはきたが、まさか自分の周りの人間が巻き込まれるとは考えもしなかった。しかし今、現実に幼馴染が被害にあっている。
萌香に携帯を返し、涙目になっていた彼女の肩に手をのせた。
「そうか・・・ありがとう。このことを教えてくれて。お前も辛かったよな。こんなこと、誰にでも相談できることじゃない。・・・ずっと一人で悩んでたんだろ?」
萌香は泣きながら「うん」と頷いた。
まずは彼女を安心させなければならない。友達を助けられずに苦しんでいた彼女を。
「このことは俺に任せてくれ。知り合いにそういうのに詳しい人がいるから、その人に相談してみるよ。なるべく公にならないように気を付けるから。だからもう抱え込まなくていい。大丈夫だ。萌香はよくやったよ」
「俊君・・・」
萌香は顔を上げ、俺の方を見つめる。
「でも気を付けて。凛の彼氏、結構やばい人とも知り合いらしいから。凛だけじゃなくて俊君にも何かあったら・・・」
「・・・そうならないように気を付けるよ」
そう言って彼女に対して笑って見せた。
だが内心、俺の感情を支配していたのはもっとどす黒いものだった。
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