毒、ときどき蜜

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三年も付き合っていると、最近は尚に対してどきどきすることなんてなくなっていた。 そのせいか、まさかの尚の行動に驚いて、全身が誤作動を起こしたみたいにおかしくなっている。 まだおさまってくれない鼓動と戦いながら俯いて自分の膝を見つめていたら、かたんと音がして、尚が席についたのが分かった。 それから、かちゃ、きん、という、なにかをしている音。 なにをしているんだろうと不思議に思いつつも、まだ顔が熱いので恥ずかしくて目を上げられない。 そのとき、ふっと口になにか冷たいものが押し当てられた。 びっくりして唇を反射的に開いてしまう。 すると中にしっとりしたものが押し込まれた。 ふわりと広がるブランデーの香りと、舌をおおう甘さ。 チョコレート。 「……美味しい」 思わずつぶやくと、フォークで切り取ったチョコレートケーキを私に食べさせた尚が、にっこりと嬉しそうに笑った。 「だろ?」 くすくす笑いながら、さらにもう一口ぶんを切り取り、私の唇へと運ぶ。 私は素直に口を開いてありがたく頂いた。 甘い。とっても、甘い。 とろけてしまいそうなほど。 もぐもぐと口を動かしていたら、尚が「あ、忘れてた」と唐突に声をあげた。 そして隣の椅子に置いてある紙袋を手に取り、私に手渡してくる。 「はい、これ」 「ん? なにこれ」 私は首を傾げながら大きいほうの紙袋を開いた。 中を見て、目をむく。 「え……っ、これ、さっきの」 店で試着したワンピースだった。 「え、なにこれ、どうしたの、なんで尚が持ってるの」 矢継ぎ早に訊ねると、尚は平然と「買ったから」と答えた。 「え………なんで」 「ん? 梨央が気に入ってるみたいだったから」 「………は」 「似合ってたし、プレゼント」 唖然として言葉も出ない。 そんな私を見て「間抜け面」と笑いながら、尚はチョコレートケーキを私に食べさせる。
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