無邪気な子供たち

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翌週の日曜日 桃子は直人と水族館に行く予定を立てていた。 二人きりで出掛けるなんていつぶりだろう 楽しみにしていた桃子だったが それは1本の電話でぶち壊されることとなった。 「うん…うん、わかった。すぐに行くよ。」 直人が申し訳なさそうに桃子の顔を見た瞬間、察しはついた。 「お兄さん…?」 「そう。千咲が入院することになったみたいで…兄貴はこれから仕事だから、隼人をあずかてほしいって言うんだ。」 「入院?」 「痙攣を起こして今病院にいるって…K町の救急病院だって。一緒に来てくれる?」 …嫌だとは言えなかった。 病院に到着すると 受付で聞くまでもなく、居場所はすぐにわかった。 看護師の静止を振り切って大声で走り回る隼人の声はフロア中に響き渡っていた。 案内された病室に入ると、千咲がぐったりした様子で眠っている。 「直人くん、桃子さん…ごめんなさいね」 そう言う敦子さんの顔は、憔悴していた。 まだ35歳だというのに、実年齢よりもかなり上に思えた。 「大丈夫ですよ、少し熱が高めですけど、インフルエンザですから。2~3日もすれば熱も下がりますよ。それより…お母さん、少し無理しすぎじゃないですか?もう少し気楽に…」 閉められたカーテンの向こうからは、若い看護師の声が聞こえてきた。 「桃子、水族館、隼人も連れてってやっていいかな?」 …嫌だなんて言えるわけがない。 車内でも大声で喋り続け、車のドアを開けようとする隼人を必死に制止する桃子 まだ着いてもいないのに、桃子はほとほと疲れ果てていた。
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