無邪気な子供たち

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「敦子さんが疲れ果てるのもわかる気がする… あれが毎日なんでしょう?」 お風呂から上がり、桃子は激しい疲労感でベッドに倒れ込んだ。 隼人は水族館では人混みの中を走り回り 止まったかと思えば水槽を叩きだし 気を逸らせようとお土産物売り場に連れて行くと 一番大きなシャチのぬいぐるみが欲しいと言い出し 直人が「そんなの買えないから、小さいものにしなさい」と諭すと 買ってくれるまで帰らないと地面にひっくり返って泣き叫び 店の商品を桃子達に向かって投げつけ 結局直人は1万円近くするシャチを買わされたのだった。 隼人の自宅も、大きなおもちゃで溢れかえっていた。 敦子の父親は早くに亡くなっていて、母親も去年亡くなったという。 直人達の両親も親の介護に追われ遠い田舎で暮らしていて、直人以外に近くに身寄りはいなかった。 膨大なおもちゃは、こんなふうに隼人に泣いてせがまれ、全て兄夫婦が買い与えたものだろうと察しはついた。 何度も係員から注意を受け、逃げるように水族館を後にした桃子達だった。 友達や姉の子供、身近に子供は何人かいるが ここまでの問題児は見たことがない。 何かの障がいではないかと疑うレベルで隼人のそれはひどかったが、専門家でもない桃子には… ましてそんな甥を溺愛している直人には、そんなことは口が裂けても言えなかった。 「兄貴から電話で、今日はありがとうって。千咲の熱も下がってきて、もう退院したってさ。」 「…よかったね。あのさ、直人、こんな時に言い難いんだけど…私正直、これからはもっと二人の時間を大事にしたい」 「俺も悪いと思ってるよ。けど今は…敦子さん、育児ノイローゼ気味みたいで。」 「育児ノイローゼ…?」 桃子が敦子と初めて会ったのは半年ほど前だったが その頃から敦子は既にどこか暗い雰囲気を纏っていた。 そういう性格なんだと思ってたけど… 「前はもう少し明るい人だったんだ。隼人のことも怒鳴って叱りつけるぐらいの。」 それが、育児のストレスで段々と殻を被るようになったということか…。 桃子は、直人にそれ以上何も言うことができずにきた。 小学校に上がれば、会う頻度も減るだろう。 今だけのことだ、桃子は自分にそう言い聞かせた。
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