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「お帰り桃子、ごめんな」
そう言う直人の膝の上には、桃子の顔を見ようともしない千咲が座っていた。
「直人、ちょっと話が…ちーちゃん、向こうでテレビ見ててくれるかな?」
「いーや!」
…相変わらず可愛くない。
「どうした?」
「いや…後でいいや。」
ご飯を食べさせ、千咲を寝かしつけた直人はそのまま一緒に眠ってしまった。
無理もない、現場仕事の直人は毎朝5時起きだった。
深夜0時をまわった頃
直人の携帯が鳴っていたが、いっこうに起きる気配がない。
画面を見ると “兄貴” と表示されていた。
千咲を迎えに来たのだろう。
少し迷ったが、桃子はその電話に出た。
「もしもし、桃子です。直人は千咲ちゃんと一緒に寝ちゃってて」
「桃子ちゃん?実は隼人の容体が急変して…今病院へ向かってるんだ。申し訳ないけど、朝まで千咲を寝かしといてくれないかな?」
…嘘だ。さっきの女の子とどこかに泊まるつもりなんじゃないの?
桃子は秋人に対して、もう疑惑しかなかった。
「…心配なので私も今から行きます。千咲ちゃんと直人はよく眠ってるので、私だけ」
「…いや、いいよ、それは悪いよ。明日も仕事でしょ?」
そう言う秋人を振り切るかのように
「とにかく行きます」
と電話を切り、片道20分の病院へと車を走らせた。
もしもこれが秋人の嘘ならば
直人にはもう二度と子供達をあずけないでほしい
そう言うつもりだった。
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