無邪気な子供たち

8/15
前へ
/15ページ
次へ
「桃子、桃子、俺行くから。千咲のこと、お願いな。」 開ききらない瞼の先には 作業着を着た直人の姿がぼんやりと見えていた。 時刻は6時 病院から戻った桃子はなかなか寝付けず 明け方までぼんやりと考え事をしていた。 秋人の浮気現場を目撃したこと …話したいことは沢山あるのに、頭がまわらない 桃子は再び瞼を閉じ、アラームが鳴る7時まで泥のように眠った。 千咲を起こすと 「ママがいい!ママじゃないと起きない!」 と泣き叫んだ。 …勘弁してほしい。 「ちーちゃん、隼人くんが病気だからママはここにはいないの。隼人くんが元気になるまでの我慢だよ」 「はやとばっかりずるいー!」 何を言っても泣くばかりだ。 インターホンが鳴る音が、救世主のように感じた。 秋人だった。 「ほら、パパが来たよ?」 「ママじゃなきゃいやー!パパなんてうわきしてるくせにー!」 …桃子は鼓動が急激に速くなるのを感じた。 千咲は今なにを言ったの? 振り返ると 秋人が鬼の形相で桃子を見ていた。 「いえ、私は何も…」 いや、この際だ。はっきり聞いておこうと開き直った。 「秋人さん、隼人くんが急変した夜、O駅で女の子と歩いてましたよね…?」 ぎくりとした顔で秋人がこちらを見た。 明らかに動揺している。 「桃子ちゃん、俺の仕事は営業なんだよ。確かにクライアントの女性とは打ち合わせで会ってたけど…それを浮気だと?それもこんな子供に言うことかい?」 「私は千咲ちゃんには何も言ってません」 千咲は火がついたように泣き叫んでいる。 「一晩あずかってくれてありがとう」 そう言うと、秋人は目も合わさず千咲を抱き上げ 逃げるように部屋を後にした。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加