郭公の雛

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「あすなろ園」 そう書かれた表札が掲げられた門扉に足を踏み入れると、マンションのエントランスの様になっている入口が有り、そこには子供達が描いたのだろう様々な物の絵が賑やかに張り出されている。 「こんにちは」 加奈子は何かの雑誌や絵本から切り抜かれたアニメのキャラクターが、混然と貼り付けられている扉を開いて建物の中に入った。 入口を入ると直ぐ左側には受付の窓口が設けて有り、その窓口の奥にある仕切りの無い長方形の部屋はそのまま職員達の事務所になっている様だった。 「はい、どちら様でしょう」 手前のデスクを離れて受付に現われた女性は、丁度加奈子と同じ位の年頃の女性で名札には「安田」とだけ書かれていた。 「あの……すいません、先日お電話させて頂いた後藤と申しますが……村上和也君に……」 「あっ、ちょっと待って下さいね、曾根さ~ん!後藤さん見えられましたよ」 安田という女性職員は加奈子が話し終わるのを待たずに、加奈子と電話でアポがある曾根の名を事務所の奥の方に向かって呼び掛けた。 すると、それと同時に北側の一番奥の席でパソコンに目を向けていた初老の男が顔を上げてこちらを見る。 曽根と加奈子の意志の疎通を確認すると、安田という女性職員は屈託の無い笑顔で加奈子に軽くお辞儀をし、また自分の席に戻り書類の処理に埋没して行った。 「どうも、初めまして、私が曾根正彦です」 窓口の横にある扉から出て来たその初老の男は、そう言うと簡素な名刺を加奈子に差し出して軽くお辞儀をした。 曾根が着ている白にパステルカラーの青いストライプが入っている開襟シャツはよく糊が利いていてとても清潔そうに見えた。 「じゃあ、どうぞこちらに」 曾根は加奈子を案内しながら、入口から直ぐ南側に有る二階へと続く階段を登り始めた。
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