郭公の雛

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「それでは、幾つか事実関係について確認させて頂きたいのですがよろしいですか?」 「あっ、はい」 曾根は持参したクリアケースから数枚の用紙を抜き出すとペンをとった。 「先ず村上さんなんですが、もう入籍は済まされましたか」 「あっ、いえ……まだです」 「そうですか……あの、村上さんは、婿養子として後藤さんの籍に入籍されるんですか」 「はぁ……一応その予定ですが……」 「……そうですか……、後藤さんは村上さんから和也君の事をどのように聞いておられますか」 「えっ……はぁ……、あの……、生物学的には自分の子供ではないと……」 「それ以外にはどうですか」 「あっ……いや……それ以外には五才位というのと名前位しか……」 曾根は、握っていたペンをテーブルの上に置くと加奈子の目を覗き込む様にして話し掛けて来た。 「後藤さん……、村上さんと和也君の関係や、いったいどういった経緯で和也君が現在の様な状態になっているかという事は、プライバシーや個人情報の守秘義務の観点から僕の口から申上げる訳にはいきませんが、しかし老婆心ながら言わせて頂きますと、もう少し村上さんに詳しい話しを訊いてから遍く書類には署名捺印をした方がいいのではないでしょうか?失礼ですが貴女を見ていると、それはまるで催眠商法で、高価な羽毛布団の契約書にサインをしている人や、振込め詐欺に遭って、今まさにATMで大金を振込もうとしている人を見ているようで、気が咎めてなりません。それに、その様なあやふやな状態では・・・僕は、監査員として……、今の後藤さんに和也君を託すというのは……、とてもではありませんが賛成出来兼ねます……」 曾根は乗り出していた身を元に戻すと、しかし、尚加奈子の目をジッと見詰めたまま話を続けた。
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