郭公の雛

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「後藤さん、今の時代、子供を一人成人させるのに幾ら掛かるかご存じですか。」 「いえ……」 「三千万円とも四千万円とも言われています」 「さっ、三千万から四千万!」 「そうです、三千円万から四千万円です。こうしてお金でお話しすると解りやすいでしょ。貴女は今、三千万とも四千万とも考えられる大金の借用書に署名捺印をしようとしている様なものなんですよ?しかもその大金で貴女が買おうとしているのは、(楽)ではなく、(苦)なんです、解りますか、子供を育てるという行為は無償の行為です。原則的には、なんの見返りも求めるべきではない質のものです。そしてその行為をやり遂げるには、多くの汗をかき多くの涙を流さねばならないという代償を求められるんです、しかし人間は、それでも子供を産み、育てようとします。それは何故か?それは、自分の遺伝子を後世に伝えたいという本能の助力が働くからです。しかし和也君は、残念ながら貴女の遺伝子も、そして村上さんの遺伝子も持ってはいない。悪いことは言いません、もう一度よくお考えになられてはどうでしょう?」 そうだ、考えて見れば曾根さんの言う通りだ。いくら幸次郎にその辺りの説明を求めても、「今は言えない、出所したら話す」の一点張りで何も話しては呉れない。 犬や猫の子を貰うのではないのだ仮に幸次郎が全ての事情を包み隠さず話して呉れたとしても、本来こんなあやふやな気持ちで引き受けるべき事ではない。 何故私が自分の人生を犠牲にして否、もし引き受けるとすれば、私の家族をも巻込んでまで他人の子を育てねばならないのだ。 「判りました。曾根さんのおっしゃる通りです。私……どうかしてました。もう一度よく考えてからお返事させて頂きたいと思いますので、もう暫くお時間頂けますか」 「勿論です。よくよく熟考なさってからお返事下さい。ところで、今日は和也君にお会いになられますか?」
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