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加奈子が幸次郎と出会ったのは、幸次郎が逮捕される一年前の事だった。
加奈子は田舎の平凡な家庭で三人姉妹の長女として育った。
人の良い田舎の人々に囲まれてこれと言った不自由もなく、波風もない場所で、しかし彼女的にはそんな恵まれた環境を少し斜めに見ながら生きて来た。
何か大きな不満はない、しかしその代わり、これでいいのだろうかという居心地の悪さがいつも胸の内に蟠っていた。
そんな時、加奈子は幸次郎と出会った。
ルックスがよく物知りで自信満々な幸次郎は、しかしそんな事より何より加奈子の事を必要としてくれた。
加奈子にはそれが嬉しかった。
黙っていると、まるで消えてしまいそうな自分に焦燥感を抱く加奈子にとって、誰かに必要とされるという事は、その事だけで自分のアイデンティティーを確立するには充分だった。
だが、幸次郎は田舎育ちの加奈子の常識の範疇で割り切れる様な人間ではなかった。
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