旅立ち

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「もう一度言ってみろ!」  いうや否や、皓の見事な直突きが充の鳩尾(みぞおち)に決まった。  上背のある皓が、しなやかに腕を使ってくりだすパンチには、十歳の子供とは思えない迫力がある。  顔を狙わなかったのはせめてもの慈悲だ。 「やめてよ、皓」  半泣きになった洵が、皓の腕にぶら下がって、ようやく次の一発を思いとどまらせた。 「今度やったらただじゃすまないからな」  そう皓がすごむと、充は真っ青な顔をして一目散に逃げて行った。 「高等小学校はお前ひとりで行くんだぞ」 「うん。分かってる」  洵は俯いたまま答えた。  泥だらけになった洵の教科書を拾ってやりながら、皓はため息をついた。
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