1.姿無き犯人

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「マズイまた会社に遅れる!」 青が点滅を始めた交差点めがけ舟木は駆け出した。 5月からは、 もう二度と遅刻しないと決めていた。 かろうじて横断歩道を走り切ったが呼吸の乱れが収まらない。 「一息つこう」 足取りを緩め、 ビルの陰で立ち止まった。 しわくちゃになった紙が空から落ちてきた。 「何だろう?」 拾い上げ、 紙を広げ伸ばすと文字が書いてあった。 「誰か助けて!」 ギョッとして辺りを見回す。 「誘拐?」 事件らしき事は何も起きていない。 ビルを見上げる。 何の変哲もないごく普通のビル。 窓に人影もなければ、 人の声も聞こえてこない。 街の賑わいはいつも通り、 道行く人の気配も表情にも、 どこかで何か事件が起きたような様子はまるでない。 「趣味の悪いイタズラだな。 でも一応、 この紙は交番に届けよう」 *****
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