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「マズイまた会社に遅れる!」
青が点滅を始めた交差点めがけ舟木は駆け出した。
5月からは、
もう二度と遅刻しないと決めていた。
かろうじて横断歩道を走り切ったが呼吸の乱れが収まらない。
「一息つこう」
足取りを緩め、
ビルの陰で立ち止まった。
しわくちゃになった紙が空から落ちてきた。
「何だろう?」
拾い上げ、
紙を広げ伸ばすと文字が書いてあった。
「誰か助けて!」
ギョッとして辺りを見回す。
「誘拐?」
事件らしき事は何も起きていない。
ビルを見上げる。
何の変哲もないごく普通のビル。
窓に人影もなければ、
人の声も聞こえてこない。
街の賑わいはいつも通り、
道行く人の気配も表情にも、
どこかで何か事件が起きたような様子はまるでない。
「趣味の悪いイタズラだな。
でも一応、
この紙は交番に届けよう」
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