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「いたぞ、
あそこだ!」
断崖絶壁の上から大声がこだました。
黒い背中から噴き出す潮が虹色に輝く。
5月のゴールデンウイーク、
ホエール・ウォッチングに
出かけると、
システム・エンジニアの牧は決めていた。
鯨の雄姿を満喫し、
宿に帰りつく。
「一息つこう」
ひなびた談話室。
宿の<想い出ノート>をめくる。
何故か途中のページがちぎれていた。
「何だろう?」
目を凝らし光に当て後ろのページの筆圧の跡を追う。
浮かび上がる六文字。
「誰か助けて!」
心がふさぐ。
「自殺?」
ここ、
八丈島は傷心旅行のメッカ。
そのまま帰らぬ一人旅が今も後を絶たない。
「もう手遅れだろう。
気の毒に。
でも一応、
このノートは交番に届けよう」
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