1.姿無き犯人

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「いたぞ、 あそこだ!」 断崖絶壁の上から大声がこだました。 黒い背中から噴き出す潮が虹色に輝く。 5月のゴールデンウイーク、 ホエール・ウォッチングに 出かけると、 システム・エンジニアの牧は決めていた。 鯨の雄姿を満喫し、 宿に帰りつく。 「一息つこう」 ひなびた談話室。 宿の<想い出ノート>をめくる。 何故か途中のページがちぎれていた。 「何だろう?」 目を凝らし光に当て後ろのページの筆圧の跡を追う。 浮かび上がる六文字。 「誰か助けて!」 心がふさぐ。 「自殺?」 ここ、 八丈島は傷心旅行のメッカ。 そのまま帰らぬ一人旅が今も後を絶たない。 「もう手遅れだろう。 気の毒に。 でも一応、 このノートは交番に届けよう」 *****
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